企業法務の基礎 Q&A | 第一法規株式会社

△ 新たな当社の取引先から、業務委託契約に付随して、秘密保持契約の締結を要求されています。これまで、とくに秘密保持契約を求められたことはありませんでしたので、結論を保留しています。当社としては、秘密保持契約を締結することが一般的なものであれば応じることとしたいと考えていますが、一般に締結されているものでしょうか。
また、締結する場合、その内容としては、一般にどのような事項が定められているのか教えてください。

△ 企業間で事業提携をする場合、または、商品の売買をするときに、事前に営業上の機密や商品に関する機密情報の開示を受けて取引を開始する場合や、業務遂行上、相手方の機密情報を扱う場合などにおいては、商取引等にかかる契約前またはその契約と同時に、秘密保持契約の締結が求められることがあります。
昨今は、個人情報保護法との関係から個人情報の取扱いなどにも慎重な態度が求められているだけでなく、事業者の営業秘密についてもその管理体制の整備が必要とされてきているため、秘密保持契約の締結は、特別なことではなく、むしろ多くなってきているといえます。
秘密保持契約を締結する場合、通常は、秘密情報の定義、秘密保持義務の内容、損害賠償、契約終了時の措置などの条項が定められます。

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1 秘密保持契約

(1) 必要性
企業間で事業提携をする場合や合併や事業譲渡などの再編に先立ち、相手方の営業上の機密などを事前に知る必要がある場合は、事業提携や再編が成立しない場合などに備えて、あらかじめ秘密保持契約を締結することになります。
また、取引先に自社の商品に関する重要な情報を開示せざるを得ない商取引を行う場合や、業務委託において必然的に営業上の機密や個人情報等の重要な秘密情報を受託先にゆだねざるを得ない場合において、契約と同時に秘密保持契約を締結することがあります。
これらは、秘密情報を情報受領者により第三者に開示されて営業上の損失を受けることを阻止することや、個人情報保護法上認められた第三者委託の際に求められる安全管理措置とすることなどを目的として締結されるものであり、秘密保持契約を締結する例は、実務的にも多くなってきています。
特に、不正競争防止法上の保護対象となる「秘密管理性」を有する「営業秘密」と認められるために、秘密保持契約の締結が求められ、また下記(2)の誓約書などを徴求する傾向にあります。
(2) 秘密保持契約(誓約書等)が利用される場面
企業間だけではなく、企業内においても秘密情報の漏えいを防止することなどを目的として、職場の従業員との間において、秘密保持契約が締結される場合があります。
この場合、後掲3の契約書ひな形のような秘密保持契約書を締結するのではなく、就業規則においてその内容を定めたり、個別の誓約書の提出を受けるなどによって、秘密保持義務を負わせる方法がみられます。

2 秘密保持契約の内容

(1) 秘密情報の定義
秘密情報を定義して、どのような情報が秘密情報とされるのか、その範囲を明確にする必要があります。
この場合、大まかにいえば、広く定義する方法と限定する方法とがあり、秘密の定義から漏れることを防止するため広く定めるのか、秘密の定義自体があいまいになることを避けるのか、という観点などから検討します。
一般には、「書面、口頭その他の方法を問わず、相手方に開示された開示者の営業上、技術上その他業務上の一切の情報」と広く定義する場合や、「秘密である旨書面等により明示して開示された情報および開示後書面により秘密であることを通知した情報」と明確にする場合などがみられます。
なお、定義規定において、秘密情報の例外規定が設けられるのが一般であり、①すでに公知、公用の情報、②開示後、受領者の責めによらず公知、公用となった情報、③開示される以前から自ら保有していた情報、④正当な権限を有する第三者により守秘義務を負わずに入手した情報、⑤相手方から開示された情報と無関係に開発、創作した情報などは除外するのが通例です。
(2) 秘密保持義務の内容
秘密保持義務は、秘密として厳重に保管・管理することや相手方から書面による同意がない限り第三者に開示・漏えいしないことなどを内容としますが、実務上の必要から例外が定められます。たとえば、裁判所からの令状に基づく押収、文書提出命令、その他法令上開示義務がある場合、また、企業再編の場合には、弁護士や公認会計士、特定のアドバイザーに対して開示する場合などを例外として定めることがあります。
(3) 履行確保(予防策)
秘密保持契約においては、その履行確保まで規定する場合もみられます。この場合、秘密保持の履行状況の調査の必要があると判断した場合において、管理体制、管理状況などの報告を求めることができるとし、違反していた場合は秘密情報の使用の差止め、管理体制整備の改善請求などを規定することなどがあります。さらに、立入検査を規定する場合もあります。
(4) 違約に関する条項
秘密保持契約に違反して情報を漏えいした場合の措置として、損害賠償に関する規定が設けられますが、単に「一切の損害賠償請求ができる」と規定する場合、損害賠償の予定としての違約金額を定め具体的金額をあらかじめ確定する場合(なお、この場合、違約金を超える損害がある場合は損害賠償を認める条項を付加します)、弁護士費用を含めた訴訟等手続対応費用を明示して付加する場合などがあり、反対に3の契約書ひな形にあるように損害賠償責任を制限する場合もあります。
また、漏えい等が判明した場合の報告義務、損害回復の措置をとる義務、管理体制の構築義務(費用負担義務)を具体的に課す場合もあります。
(5) 契約終了時の措置
契約が終了するなど開示期間が終了した場合や返還要求があった場合における、秘密情報の取扱措置が定められます。この場合、返還、廃棄、消去等の具体的方法が指定されます。

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