企業法務の基礎 Q&A | 第一法規株式会社

△ 当社には、暴力団など反社会的勢力への対応方法を定めたマニュアルなどが存在せず、反社会的勢力への対応は、その場での社員任せになってしまっているのが現状です。このため、この度、社内の体制を整備し、反社会的勢力との関係遮断を徹底したいと考えております。
当社としては、どのような体制を構築することが望ましいでしょうか。

△ 当社には、暴力団など反社会的勢力への対応方法を定めたマニュアルなどが存在せず、反社会的勢力への対応は、その場での社員任せになってしまっているのが現状です。このため、この度、社内の体制を整備し、反社会的勢力との関係遮断を徹底したいと考えております。
当社としては、どのような体制を構築することが望ましいでしょうか。

企業法務の基礎 Q&A | 第一法規株式会社

1 反社会的勢力について

(1) 反社会的勢力とは
反社会的勢力とは、暴力団、総会屋、会社ゴロ、社会運動等標榜ゴロ(エセ右翼、エセ同和など)などを言います。これらの反社会的勢力は、機関誌の購入、下請けへの参入、広告料、賛助金、寄付金、通常取引の仮装や、事故やトラブル等を理由にした因縁・クレームなど、あらゆる手段・名目で不当な要求を行い、企業からの資金獲得を狙っています。
(2) 暴力団の現状
平成4年3月1日に「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(いわゆる「暴力団対策法」)が施行されたことを契機に、暴力団に対する取締まりが強化されたことから、暴力団も表立った行動が取りにくくなってきています。
しかし、だからといって暴力団の活動が減少したとは決して言えず、暴力団であることを隠し、企業活動や政治活動を装った上で活動するなど、暴力団による活動は不透明化の傾向を強めています。
このように、暴力団は、社会情勢の変化に応じて、様々な手段で常に企業等から資金獲得の機会を狙っていることを認識しておく必要があります。

2 内部統制システムについて

取締役会設置会社は、取締役会の決議で「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(いわゆる「内部統制システム」)を定めることができます(大会社である取締役会設置会社は、内部統制システムの決定が義務付けられています)。
なお、取締役会で定めるべき事項は、内部統制システムの構築の基本方針で足り、細目的事項についてまで取締役会で全て定める必要はありません。

3 反社会的勢力への対応方法

(1) 内部統制システムの定め
企業として、反社会的勢力との関係遮断を明確にし、社内外へアピールするためにも、まず内部統制システムにおいて「反社会的勢力との関係を遮断するための基本方針」を定めることは有益です。
なお、平成18年10月に「全国暴力追放運動推進センター」が全国の企業3,000社を対象に実施したアンケート結果によれば、内部統制システムの基本方針に「反社会的勢力との関係遮断」を盛り込んだ企業は25.7%であり、その主な理由は、「反社会的勢力と関係を持つことは社会正義に反し、社会的責任を果たす必要がある」「反社会的勢力といったん関係を持ってしまうと、企業経営に不測の危険を招くとともに、役員、従業員の生命、身体の危険が発生しかねないなど、企業防衛上必要である」「組
織として毅然とした対応をするシステムを明文化することが重要である」などです。 他方、内部統制システムに「反社会的勢力との関係遮断」を盛り込まなかった企業は、その理由として「当たり前のことなので明文で規定する必要性を感じなかった」「法律上の要請がないので、規定する必要がないと感じた」「社員の倫理・常識で考えるべきことだと考えた」などを挙げています。
確かに、反社会的勢力との関係遮断は、企業にとって「当たり前」のことです。しかし、「当たり前」と思っていても、過去に反社会的勢力と関係を持ってしまい、なかなか関係を遮断できなかった企業が存在することも事実です。このため、内部統制システムにおいて、会社としての基本方針を明確に謳い、社内外に宣言することは、反社会的勢力への対応策として有益であるものと思われます。
(2) 社内体制の整備
内部統制システムにおいて「反社会的勢力との関係遮断」が謳われていても、そのための体制が整備されていなければ意味がありません。
具体的な体制としては、
・ 対応マニュアルの作成、社員への周知徹底
・ 不当要求防止責任者など責任者の選任
・ 講習会などによる社員教育の徹底
などが挙げられます。
これらの体制の整備にあたっては、警察、暴力団追放運動推進センター、弁護士などの意見を参考にしていくことが望ましいでしょう。
(3) 警察などとの連携
反社会的勢力は、社会的情勢の変化などに応じて、様々な方法で企業との接触を図ってきます。このような反社会的勢力への対応は、企業だけの力では難しい場合もあるため、警察、暴力団追放運動推進センター、弁護士などの外部機関と連携し、協力を求めることも重要です。
このうち、暴力団追放運動推進センターでは、ホームページ等での情報提供、不当要求防止責任者講習の開催、暴力追放に関するセミナーの開催、暴力団員による不当行為への相談など、反社会的勢力との関係遮断に関する様々な活動を行っています。同センターの情報は非常に有益ですので、対応マニュアルの作成や社内体制の整備に際しても、参考にすると良いでしょう。

4 企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針の公表

暴力団資金源等総合対策ワーキングチームにおける検討を経て、平成19年6月19日、企業が反社会的勢力による被害を防止するための基本的な理念や具体的な対応について、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(以下「指針」といいます。)が取りまとめられました。
指針の内容は基本的には、これまでと同じですが、目新しいものとしては、企業として「契約書や契約約款の中に、(1)暴力団を始めとする反社会的勢力が、当該取引の相手方となることを拒絶する旨や、(2)当該取引が開始された後に、相手方が暴力団を始めとする反社会的勢力であると判明した場合や相手方が不当要求を行った場合に、契約を解除してその相手方を取引から排除できる旨を盛り込んでおくことが有効である。」とされている点です。
企業としては疑わしい取引相手を調査することで契約関係に入らないことが重要ですが、入った場合でも上記(1)、(2)の条項を入れておけば反社会的勢力との関係を解消することができます。
これらの条項を利用しての契約の解消についても、事前に警察などへ相談の上で、行った方がよいと思われます。

5 東京都暴力団排除条例の施行

(1) 東京都暴力団排除条例の意義
指針は、企業に対し、社会的責任・コンプライアンスの一環として、暴力団との取引を含めた一切の関係遮断を求めており、その体制を整備することは役員の善管注意義務の判断基準とはなり得ますが、指針自体が法令ではありませんので、法的拘束力はありませんでした。
これに対し、平成23年10月1日に、東京都暴力団排除条例(以下「都条例」といいます。)が施行され、法的拘束力をもって(いまだ努力義務にとどまりますが)、暴力団排除が求められることとなりました。
都条例では、暴力団への利益供与が禁止されるとともに、違反者には防止に必要な措置をとるよう勧告され得るほか、勧告後1年以内に不当な利益供与を行った場合はその事実が公表されるという制裁を受けることになりました。
(2) 都条例下の反社会的勢力リスク体制の構築
都条例の施行より、企業としては、反社会的勢力リスク管理体制を以下のような手順で構築する必要があります(これまで述べてきたことと重複する部分もあります)。
① 取締役会決議と代表者による宣言
暴力団排除体制の構築は、内部統制システムの一環であり、取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適性を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制(会社法348条3項4号、同362条4項6号)に該当するため、取締役会決議が必要です。
決議内容は、反社会的勢力排除宣言として、社外に対してはウェブサイトに掲載するなどして、社内に対しては文書を配布するなどして、公表する必要があります。
② 担当部署の決定または創設
上記取締役決議の際に、反社会的勢力リスク管理、取引先の属性審査、契約書審査の担当部署を創設または既存の部署に決定しておくことも必要です。既存の部署に決定する場合には、職務分掌規程を改訂しておく必要があります。
③ 契約書への暴力団排除条項の導入
暴力団排除条項とは、契約の相手方が暴力団等に該当する場合において、これを理由とする無催告の契約解除権を他方の当事者に認める特約条項です。暴力団排除条項は、指針公表以来、導入されてきましたが、都条例を含む全国の暴力団排除条例においては、無催告の契約解除権というより強力な権利での導入が求められています。
最近では、暴力団だけでなく、表面的には暴力団との関係を隠しながら、その裏で暴力団に資金を提供したり、暴力団から提供を受けた資金を運用した利益を暴力団に還元するなどして、暴力団の資金獲得活動に協力し、または関与する共生者や元暴力団員も排除対象に含めるのが主流です。

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