企業法務の基礎 Q&A | 第一法規株式会社

△ 当社の従業員がツイッターやブログ等で顧客情報漏えい等の問題を起こした場合、会社はどのような責任を負いますか。また、会社は、どのような対応をとっておくべきでしょうか。

△ 従業員がツイッターやブログ等で顧客情報漏えい等の問題を起こした場合、ツイッターやブログ等が従業員個人の契約に基づく個人の表現であったとしても、顧客情報公表がプライバシーの侵害となる場合は、当該従業員が顧客との関係で不法行為責任を負うとともに、会社も秘密保持義務に違反するとして不法行為責任を負う可能性があり、さらに従業員個人の公表・発信行為が、外形的にみて会社の業務の執行につき行われたと認められる場合には、会社は民法715条の使用者責任を負うことになります。
また、会社は、損害賠償債務を負わないにしても、社会的責任を追及され、あるいは深刻な社会的信用失墜を招来することが十分に想定されます。
したがって、会社としては、就業規則上の守秘義務遵守を徹底させ、会社の信用失墜行為として就業規則上の懲戒処分の対象となり得ることを告知し、また厳正な対応を検討する必要があります。

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1 ツイッターやブログ等での会社のトラブル

2011年以降のスマートフォンの普及に伴い、近年、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やツイッターの利用者が増え、それとともにSNSやツイッターでの従業員等の公開やツイートによって、顧客情報が漏えいしたり、不適切な表現がなされたりするケースが頻発しています。
たとえば、有名ホテル内での利用客情報をアルバイトがツイートし、その情報が広がるとともにアルバイトの個人情報もインターネット上で特定され開示されるなどして問題が大きくなった結果、会社の社会的信用が失墜し、会社側が謝罪したといった事例やそれに類する事例が多く報道されるようになっています。たとえば、ステーキレストランチェーン店のアルバイトが食材用の冷蔵庫に入り込んだ写真をツイッターに投稿したことに端を発し、当該店舗が営業停止後、最終的には退店に至ったケースもあります。 これらのツイッターやブログ等は、従業員等の個人の表現ではありますが、会社に勤務していた結果得られた顧客情報を開示・発信するケースもあり得る上、また不適切な発言そのものは個人の意見であるとしても、会社に所属している属性が開示されている場合だけでなく、インターネット上で特定される可能性がある以上、会社に対する社会的非難が避けられないケースが少なくありません。
そのため、近年、会社としては、そのような従業員等の行為の防止策を検討しなければならない状況となっています。

2 会社等の責任

上記ツイート等は、本来、従業員等の個人的な利用契約に基づく表現の場における行為であり、会社は無関係であるとはいえ、会社の顧客情報などを漏えいした場合には、当然、従業員等個人が不法行為責任を負う可能性があるとともに、会社も秘密保持義務に違反したとして不法行為責任を負う可能性が十分あります。
また、会社は、従業員等個人の公表・発信行為が、外形的にみて会社の業務の執行につき行われたと認められる場合、民法715条の使用者責任を負うことになります。
この場合、会社が、当該従業員個人の選任・監督に十分注意を払ったとして責任を免れる主張を展開したとしても、事実上、当該主張が認められるケースはほとんどないといってよいことから、職務執行性が認められた時点で会社は責任を負うことになるといえます。
さらに、会社が法的な損害賠償債務を負わないにしても、多くのケースがそうであるように、顧客の情報開示や個人的意見表明の結果、会社が社会的責任を追及・批判されて、謝罪等の対応をとらざるを得ない事態となる場合があり、また、深刻な社会的信用失墜を招来した結果、会社は有形無形の損害を受けることが考えられます。
なお、取締役個人についても、会社の情報管理体制の不備あるいは内部統制システムの欠陥が認められる場合は役員としての任務懈怠による損害賠償責任を負う可能性があります。

3 会社の対策

従業員等のSNSやツイッター等における公表・発信行為は、従業員の個人の行為であり、会社が制度的な防止策をとること自体困難な面があります。
しかし、SNSやツイッター等による情報発信は、瞬時に情報を広めることになり、その内容が不適切であったり、顧客情報の不法な開示を伴うものであったりすると、取り返しのつかない事態に陥ることになりますが、今後もスマートフォンの普及によってますます容易に発信できる環境が広がることが予測され、会社のリスク管理面からみて、特に気をつけなくてはならない状況にあるといえます。
そのため、会社側としては、十分かつ効果的な対策をとることが喫緊の課題となっています。
①就業規則上の守秘義務遵守の徹底を図り、②会社の信用失墜に係る懲戒についての十分な告知を行うとともに、厳正な対応をとることが会社側の基本的な対策となりますが、その他には、③雇入れ時の誓約書の徴求、④SNS等の利用における注意点の周知を図るため、社内研修を実施したり、注意事項の告知徹底を図ることも重要となります。
なお、会社が従業員等のSNSの利用規程を定め、それを従業員等としての遵守事項とし、懲戒の対象とすることを検討する会社もありますが、従業員の私生活上の表現の自由にかかわる領域について全般的な利用規程を設け懲戒の根拠とすることが適法あるいは適正なのかといった根本的問題があり、利用規程という形式ではなく、会社からの従業員等を対象としたSNS等利用における留意点の告知といった形式をとる場合もあります。
たとえば、従業員等に対し、匿名であっても容易に会社が特定されて公表される可能性があるとともに、勤務先が特定されている場合には個人の発言にとどまらない面があることを十分理解することや、安易な発信が取り返しのつかない事態を招来すること(たとえば「炎上」することもある)、内容によっては法的責任(不法行為責任)を負う可能性があることなどを記載した文書を交付し、十分に説明することになります。
また、事案によっては懲戒手続だけでなく、損害賠償請求を検討せざるを得ない場合もあり、そのような対応をとった事例も報道されている状況にあります。会社としては、予防策をとることは当然ですが、それとともに、事後において厳しい対応をとるか否かを検討する必要があるでしょう。


【参考法令等】

民法715(使用者等の責任)

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