当社は玩具を制作して量販店などに販売しております。おかげ様で,ある玩具が小学生に大当たりして各量販店から大量の注文を受け,順次納品しています。ところが,当社の玩具に似た他社玩具を使っていた幼児に事故があり,マスコミによる報道もなされたため,各小売店はこの種の玩具の販売自粛を打ち出しました。その煽りを受けて,当社の玩具についても大量の返品と注文キャンセルがなされました。当社の玩具は安全基準を満たしており,第三者検査機関における基準適合検査でも全く問題がなかったものです。このような理不尽な返品とキャンセルが認められてしまうと,当社は多大な損害が生じてしまいます。どうしたらよいでしょうか。

 貴社としては,自社製品で事故が発生したものでないこと,自社製品は安全基準を満たしており,基準適合検査でも全く問題が指摘されていないこと,したがって自社製品には欠陥がないことを主張し,返品やキャンセルは不当であるとして,代金支払いや損害賠償に関する交渉をしましょう。もっとも,量販店側が販売自粛をする事情も理解できますので,技術面,採算面で玩具の改良が可能であれば,事故の起きにくいものに変えたり,あるいは,使用方法に関する注意書きを詳細なものに差し替えて,量販店側の不安を解消し,出荷の継続を図りましょう。

解説

1 契約が「買い取り」形式であった場合
 まず,貴社と量販店との間の契約関係がどのようなものであるかについて整理しましょう。  仮に,量販店が貴社製品を「買い取り」の上で消費者に販売することを予定している契約であった場合(売れなかった場合には量販店の在庫となり,貴社に対する返品が予定されていない場合)には,貴社玩具についての注文数に応じた売買契約あるいは製作物供給契約が成立していると見ることができます。「製作物供給契約」とは,請負契約と売買契約の性質を併せ持つ混合契約のことです。
 単なる売買契約と見た場合,既に納品を終えた分に関しては,貴社の債務を履行していますので,量販店側の債務である代金支払いの履行を要求することになります。また,代金が支払い済みであれば,返品されても返金に応じる必要はありません。売買契約を量販店側が一方的に解除できる解除原因がなければ,返品(解除)に応じる義務はないのです。注文済みの部分についても,既に売買契約は成立していますので,納品の準備を終えたことを通知し,その受領を求め(「弁済の提供」),他方で代金支払いを請求することができます。
 製作物供給契約と見た場合,売買契約の性質で考えれば上記と同じ考え方となります。請負契約の性質を重視した場合でも,納品済みの部分については,やはり返品に応じる義務はなく,代金を請求できます。キャンセルについては,完成済みでない場合には量販店側(注文者)からの解除が可能ですが,その場合も貴社に生じた損害を賠償しなければなりません(民法641条)。

2 契約が「委託販売」「販売店契約」「代理店」契約等であった場合
 契約が単純な「買い取り」形式すなわち売買契約や製作物供給契約でない場合には,法的な検討は少々慎重に行うべきです。
 例えば,「委託販売」と言われる契約についても,その内容は様々です。いわゆる「消化仕入」「売上仕入」と呼ばれる形式があります。これは,商品が小売店に陳列されている段階にあっても,商品の所有権がメーカーあるいは卸売業者から小売業者に移転しておらず,メーカーあるいは卸売業者側に所有権を留保しておき,商品が消費者に販売された時点をもってメーカーあるいは卸売業者から小売業者に対しても所有権の移転,すなわち「仕入」があったと認識するものです。この考え方が契約書上,あるいは継続的取引における当事者間の取扱い上明確になっていたとすると,たとえ納品済みの製品であったとしても,未販売のものについて売買代金請求ができません。あとは,返品についてどのような特約が結ばれているかによりますが,契約書上明確になっていなければ,返品,キャンセル分について損害賠償請求をすることは容易なことではないでしょう。
 他方,販売店が自己の計算で商品を仕入れつつ,顧客開拓・宣伝広告等も行う内容の「販売店契約」であった場合には,既に販売店との間に売買が成立していると見ることができますので,納品分・注文済みの分について代金請求を行うことができるでしょう。ところが,類似の契約である「代理店契約」の場合,通常,代理店はメーカーあるいは卸売業者と買主との間の売買契約締結を媒介している立場にすぎず,代理店自身が自己の計算で商品の仕入れをしているわけでなないため,やはり代金請求は困難でしょう。あとは,特定の商品について販売を拒否することが許されるかどうかという契約上の問題となります。
 このように,貴社としては,量販店(小売店)との契約内容についてよく確認したうえで,自身の法的立場を把握する必要があります。

3 「瑕疵(かし)」の存否
 量販店側の主張としては,貴社玩具に似た玩具で事故が起こった以上,貴社玩具でも事故が起こるおそれがあり,事故が起こってからでは,量販店の信用問題にかかわり,このような不安が,製品の欠陥=「瑕疵」であるので,民法570条(売主の担保責任)あるいは民法635条(請負人の担保責任)に基づき解除をする,ということになると思います。
 しかし,事故が起きたのは他社玩具であり,貴社玩具ではありません。類似玩具とはいえ,貴社玩具で事故が起こるという危険性が高いというわけではなく,量販店側で貴社玩具に「瑕疵」が存在することを立証するのは困難と思われます。
 となると,量販店側の解除の主張が認められるとは考え難く,貴社としては,あくまでも当初の契約に従い,量販店側に代金の支払いを要求することができると思います。

4 量販店側の不安を取り除く方法
 もっとも,量販店側の不安感もあながち否定できませんので,量販店側の不安感を取り除く方法を考えてみてはいかがでしょうか。例えば,他社類似玩具による事故の原因を究明し,貴社玩具でも同じようなことが起こらないか調査し,万が一起こる危険性が否定できないのであれば,玩具を改良することを量販店側に提案してみてはいかがでしょうか。あるいは,使用方法に関する注意書きを詳細なものに差し替えて,量販店側の不安を解消することが考えられます。

5 今後の対応
 単に法的にどうか,どちらの責任かということだけではなく,先方の悩みを把握して柔軟に対応することで,さらに貴社に対する信頼感が増す場合もあると思います。とくに今後とも,おつき合いの続く取引先とは,そのような発想の転換が求められる場合もあると思います。法的にどうなるかを基本に据えつつ,先方とよく話し合ってみてください。

■参考法令等
民法95(錯誤)
民法632(請負)
民法634(請負人の担保責任)

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