私は,総務部で契約関連の業務を担当しています。先日,営業部門の社員から「当社が発注者となる場合の業務委託契約書のひな形が欲しい。」と言われました。これから作成しなければなりませんが,どのような点に留意して作成すべきでしょうか。

 一口に「業務委託」といっても,何らかの業務の「完成」が予定されるような『請負型』のものと,一定のサービスを継続していく『準委任型』のものを区別して考える必要があります。
 発注業務を分類して何種類かのひな形を作るか,あるいは,業務範囲の確定,成果物の有無,対価支払いの前提となる「検収」や「引渡し」の意味合いの明確化,再委託・下請負の可否などの点で柔軟に定められる内容を用意し,場合により変更して用いる形にしましょう。

解説

1 業務委託契約とは
 「業務委託契約」という呼称は世間一般で用いられていますが,契約類型を列挙している民法に現れる名称ではありません。
 各業務委託契約の中身を見ていくと,多くは準委任契約(民法656条)であり,中には請負契約(民法632条)に分類されるものも見受けられます。準委任契約は「法律行為でない事務の委託」に関する契約であり,請負契約は「当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約です。両者の違いでもっとも重要なのは,請負契約では仕事の「完成」が想定されており,「仕事の目的物の引き渡し」と同時に報酬を支払う(民法633条)ことが理念型とされている点です。したがって,「業務委託契約」の性質が請負契約であったとなると,目的物が完成したかどうか,瑕疵はないかどうかといった点が最終段階でクローズアップされることになります。
 「運送業務委託」「調査業務委託」「ソフトウェア開発委託」など多様な業務委託契約がありますが,日々発生する事務処理を任せているに過ぎないのか,「完成」が観念されるような内容か,といった点を意識する必要があります。
 したがって,ひな形を作るとしても,①何らかの業務の「完成」が予定されるような『請負型』のものと,②一定のサービスを継続していく『準委任型』のものを区別して作成する必要があります。

2 業務内容と範囲の確定
 業務委託契約の出発点は,業務内容と範囲の確定です。契約書上,必ず,委託業務の内容が記載されるところですが,その記載が抽象的なものとなっている場合があります。
 例えば,調査業務を委託する場合には,調査の目的,対象,期間,方法,秘密保持義務などと共に,報告書の作成義務と報告書に盛り込む項目の特定などが必要です。このように可能な限り詳しく業務内容と範囲を特定することによって委託者と受託者との認識の齟齬が防止できるでしょう。
 ソフトウェア開発委託契約は中でも特殊であり,企画,要件定義,設計,プログラミング,テスト,保守といった工程をカバーした内容とすべきです。
 委託業務の内容をきちんと書きこんでいないと「そこまでは受託していない」「これ以上の作業は追加になるので別途料金が発生する」などと言われてしまいます。委託業務の内容の書き方については,ひな形では対処しきれない部分ですので,契約締結する際に社内で逐一チェックする体制を作っておく方が無難です。

3 報酬の支払時期,条件
 報酬の支払時期,条件に関しては,請負型なのか準委任型なのかによって基本的な考え方が分かれます。
 『請負型』の場合には,「仕事の完成」「目的物の引渡し」があった時点より後に支払時期を設定するのが通常です。受託者の資金繰りの必要上,「完成」前に出来高払いをしていくとなると,これは特約ということになります。「仕事の完成」がない状態で引き渡されても委託者として何ら便益を得ることが出来ない(例えば,動作しないソフトウェアなど)ような契約では,このような「出来高払い」には慎重にならざるを得ません。また,目的物に不具合,瑕疵,欠陥というべき点がある場合には,これを速やかに修補させる必要があるので,委託者による「検査」が行われ,その検査に合格する(いわゆる「検収」)ことによって報酬の支払義務が発生する旨定める方法が多く用いられます。
 他方,『準委任型』の契約となると,受託者は「仕事を完成」する義務を負っているわけではなく,受託業務について善管注意義務を尽くしていればよいこととなります。受託業務の内容も,日々発生する事務を順次処理するといった内容が多く,そのため,毎月一定額を支払うといった内容が多く見られます。

4 再委託(下請負)の可否
 請負契約の場合には,仕事の完成に重点があり,逆に言えば仕事を完成させれば問題がないため,原則として下請負をさせても構いません(例外は,演奏など,請負人の個性に重点ある場合)。したがって,『請負型』の業務委託契約において受託者自身の技術を信頼して業務委託契約をする場合や,秘密保持の観点から再委託(下請負)を禁止・制限したい場合には,制限規定を設けなければなりません。
 他方,『準委任型』の契約(準委任契約)においては,専門家として信頼しているからこそ委任する,という関係が理念型とされているため,受任者の手足に過ぎない履行補助者と言えない限りは,さらに第三者に委任すること(復委任)は原則としてできないこととされています。とはいえ,既述のとおり,「業務委託契約」と銘打つ限り,『請負型』か『準委任型』か不明確な場合がありますので,準委任契約であると思われたとしても,再委託を禁止・制限したい場合には,明文で制限規定を設け,受託者との間の認識の齟齬を防止するべきです。
 再委託を禁止・制限する場合,全面禁止する,子会社以外への委託は禁止する,再委託する場合には予め委託者の書面による「承諾」を得なければならないものとする,予め書面による「届出」で足りるものとする,など,制限の度合いにバリエーションがあります。再委託の余地を残す場合には,再委託先の商号・本店所在地・代表者などを報告させ,かつ,再委託先にも受託者と同様の義務を負わせ,遵守させる旨の規定を置くことが通例です。

5 継続的契約の場合
 一度委託したら個別注文が発生しないような契約もありますが,中には,個別の注文を繰り返すような性質の業務委託契約もあります。そのような契約の場合には,個別契約の成立時点について記載する必要があります。すなわち,受託者が注文を承諾する返信を行った場合のほか,注文から一定期間が経過して受託者から返信がない場合には受注したものとみなす,といった規定です。  また,業務委託契約本体と,これら個別契約との関係性についても記述しておくべきです。業務委託契約の内容と個別契約の内容が相反する場合には個別契約の定めが優先する,といった定め方が考えられます。この方が柔軟ではありますが,それぞれの注文に,特約となるべき内容が含まれていないかどうかは常に注意しておく必要が生じます。

■参考法令等
民法632(請負)
民法633(報酬の支払時期)
民法656(準委任)

閉じる