企業法務の基礎 Q&A | 第一法規株式会社

△ 株式会社の設立の手順を教えて下さい。

△ 発起設立とは、発起人が全ての設立時発行株式を引き受ける方法の設立手続です。
募集設立とは、発起人が設立時株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法をいいます。
設立には、発起設立と募集設立がありますが、発起設立の方が手続的に簡易といえます。

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1 発起設立の手順
発起設立の手順の概要は、次のとおりです。おおむね、①ないし⑨の順番で手続が進みます。
① 発起人の決定(発起人組合契約の締結)
② 定款の作成
発起人が株式会社の設立にあたり最初に作成する定款を「原始定款」と呼びます。 定款は、書面化されるか、または電子データとして電磁的記録媒体に記録されることが必要となります。
定款の記載事項は、その性質に応じて絶対的記載事項、相対的記載事項および任意的記載事項に分類されます。
絶対的記載事項は、①目的、②商号、③本店の所在地、④設立に際して出資される財産の価額または最低額、⑤発起人の氏名または名称および住所、⑥発行可能株式総数、です。⑥については、記載がなくとも公証人の認証を受けることはできますが、その場合、会社の成立時までに、発起人全員の同意等により定款を変更して、その定めを設けなければなりません。上記①から⑤を満たさない場合、原始定款として認められず、設立時の定款の効力要件である公証人の認証を受けることはできません。
絶対的記載事項のほか、変態設立事項(会社法28条)などの会社法の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項のことを相対的記載事項といい、その他の事項で会社法の規定に違反しない事項のことを任意的記載事項といいます。
なお、会社法は、解釈の明確化・法的安定性等の観点から、法律に規定されている事項について定款で別段の定めを置くことができる場合については、逐一、明文の規定を設けるという方針のもとに整理されています(会社法297条1項など)。
故に、旧商法では、定款の定めがなければその効力を生じない事項として、①法律の規定に基づき、定款で別段の定めを設けることができる事項、と、②法律においては定款に対する言及はないが、定款で別段の定めをすることができるものと解されている事項(たとえば、少数株主権の要件を緩和する旨の定款の定め)、とがあると考えられていましたが、会社法では、②のような定款の定めを置くことは許されないと考えられています。
会社法29条の「この法律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項」とは、法律の規定に基づき定款で定めを置く事項を意味し、「その他の事項でこの法律の規定に違反しないもの」とは、法律に定めがない事項について、法律とは無関係に定款で一定の事項を定めるもの(たとえば、事業年度の定め)を意味します。
③ 定款の認証
原始定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力が認められません。
④ 検査役の選任、検査役による調査・報告、定款の変更、定款の廃止
発起人は、定款において会社法28条各号に掲げる記載または記録(変態設立事項)がある場合、会社の定款認証後、遅滞なく当該事項を調査させるため、裁判所に対し検査役の選任を申し立てなければなりません。
検査役は、変態設立事項につき調査し、調査結果を書面または電磁的記録に記載または記録して裁判所に報告しなければなりません。
裁判所は、検査役の報告を受けた場合において、変態設立事項の記載または記録が不当であると認めたときは、これを変更する決定をしなければなりません。
この裁判所による変更の決定に対して、発起設立の場合、発起人は当該判決の確定後1週間以内に限り、その設立時発行株式の引受けにかかる意思表示を取り消すことができます。その場合は、発起人は全員の同意によって、上記決定の確定後1週間以内に限り、当該決定により変更された事項についての定めを廃止する定款の変更をすることができます。
変態設立事項がない場合または検査役の選任が必要ない場合(会社法28条)は、検査役の選任等は問題になりません。
⑤ 設立時発行株式に関する事項の決定
設立時発行株式に関する事項(定款に定めがある事項は除く)として決定しなければならないのは、次のとおりです。発起人の全員の同意を得て定めなければなりません。
(ⅰ) 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
(ⅱ) 前号の設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額
(ⅲ) 成立後の株式会社の資本金および資本準備金に関する事項
(ⅳ) 設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合において、会社法32条1項1号の設立時発行株式が同法108条3項前段の規定による定款の定めがあるものであるときは、当該設立時発行株式の内容。
⑥ 発起人による株式の引受け
発起設立の場合、設立時発行株式の全てを発起人が引き受けなければなりません。
発起人が複数ある場合の発起人間の引受けの割合は、発起人全員の同意を得て定めます。
⑦ 発起人による出資の履行
出資は、金銭の払込みか、または現物出資の給付かにかかわらず、その全部がなされなければなりません。
金銭の払込みは、払込取扱機関の払込みの取扱場所にて行わなければならず、現物出資も履行場所として決められた場所にて行われなければなりません。
対抗要件の具備については、発起人全員の同意があれば、株式会社成立後にすることができます。
⑧ 設立時役員等の選任、設立時代表取締役等の選定
定款において設立時役員等の選任にかかる記載等がない場合、発起設立の場合、設立時役員等の選任は、発起人にて行います。発起人は、出資の履行をした設立時発行株式1株につき1個の議決権を有し(ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の発行株式につき1個の議決権を有します)、設立時役員等の選任は発起人の議決権の過半数をもって決定します。 設立する会社が取締役会設置会社である場合、設立時代表取締役の選定が必要です。設立時代表取締役の選定は、設立時取締役の過半数をもって決定します。
⑨ 設立時取締役等による調査・発起人に対する報告
設立時取締役または設立時監査役は、その選任後遅滞なく、会社法46条1項1号ないし4号の事項について調査し、法令もしくは定款に違反し、または不当な事項があるときは、発起人にこれを通知しなければなりません。
⑩ 設立登記

2 募集設立手続の手順

募集設立手続の手順は、おおむね次のとおりです。
① 発起人の決定、発起人組合契約の成立
② 定款の作成
③ 定款の認証
④ 検査役の選任、検査役による調査・報告、定款の変更命令、定款の廃止
発起設立の場合と同じです。
⑤ 発起人による株式引受事項の決定(定款に定めがある事項は除く)
⑥ 発起人による設立時発行株式の引受
⑦ 発起人による出資の履行
⑧ 募集手続
(ⅰ) 設立時募集株式に関する事項の決定
発起人全員の同意が必要です。
(ⅱ) 設立時募集株式申込をしようとする者に対する通知
(ⅲ) 設立時発行株式の引受の申込
設立時発行株式総数引受契約の締結
(ⅳ) 設立時募集株式についての株式引受人による払込み
⑨ 設立時取締役による調査
⑩ 創立総会
(ⅰ) 発起人による創立総会の招集の決定
(ⅱ) 創立総会招集通知の発送
(ⅲ) 発起人による報告
(ⅳ) 設立時役員等の選任
(ⅴ) 設立時代表取締役の選定
⑪ 設立時取締役または監査役による、会社法93条1項各号の調査
⑫ 創立総会において、設立時取締役または設立時監査役による、会社法93条1項各号の調査結果の報告
⑬ 設立登記

【参考法令等】

会社法26(定款の作成)
会社法28
会社法29
会社法30(定款の認証)
会社法32(設立時発行株式に関する事項の決定)
会社法33(定款の記載又は記録事項に関する検査役の選任)
会社法34(出資の履行)
会社法38(設立時役員等の選任)
会社法40(設立時役員等の選任の方法)
会社法46
会社法47(設立時代表取締役の選定等)
会社法25
会社法57(設立時発行株式を引き受ける者の募集)
会社法58(設立時募集株式に関する事項の決定)
会社法59(設立時募集株式の申込み)
会社法61(設立時募集株式の申込み及び割当てに関する特則)
会社法63(設立時募集株式の払込金額の払込み)
会社法65(創立総会の招集)
会社法67(創立総会の招集の決定)
会社法68(創立総会の招集の通知)
会社法87
会社法88(設立時取締役等の選任)
会社法93(設立時取締役等による調査)
会社法297(株主による招集の請求)

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