(1) 不規則発言をする者や株主総会の会場で暴れる者がいた場合に、その者を牽制し、株主総会の議事進行を円滑にさせるための発言です。一時期からすれば、このようないわゆる「総会荒らし」の数も減少してきてはいますが、いまだに株主総会を荒らすことを「職業」としている者が存在することも事実です。
このような者が万が一株主総会に来た場合に、その者を排除して、議事が円滑に進むようにすることも、議長の大きな役割であることを含んでおく必要があります。
(2) 秩序を維持するための議長の発言は、①注意、②警告、③退場命令の3段階のものが考えられます。
① 注意とは、たとえば、不規則発言をする者に対して、「不規則発言は慎んでください」などと不規則発言者を牽制するためのものです。
② 警告とは、議長の指示に従わないときには、会場から退場させる旨を警告するものです。「議長の命令に従わないと退場になります」などの用例が考えられます。
③ 退場命令は、議長の指示に従わない発言をした者その他株主総会の秩序を乱す者を会場から強制的に退場させる命令です。「議長の指示に従わないので退場です」などの用例が考えられます。
この退場命令が出された場合には、命令を受けた者は会場から退場すべき法的義務が生じるので、もし命令に従わずに会場に居座った場合には警備の者の強制力を働かせて(ただし、「腕をつかむ」などの軽微なものに限ります)会場から排除することができます。
また、退場命令は、刑法上の不退去罪(刑法130)の退去要求にもなりえます。不退去罪とは、建物の管理者から退去の要求を受けたにもかかわらず、退去しないという不作為によって犯罪を構成するというものです。退場命令は、不退去罪にいうところの退去要求に該当するので、退場命令が出されたにもかかわらず、退去しないというのは正に不退去罪を構成します。これにより、警察が対応することもできるようになるのです。
退場命令は、②の警告をした上でなければ出せないのかという議論があります。原則的には退場の警告をした上でなければ退場命令は出せないものと考えておいた方がよいですが、警告をしても効果のないことが一見明白であるとか、株主が暴れるなど、議場の混乱が甚だしいようなときには、警告をしないで、いきなり退場命令を出しても差し支えないと考えられます。