企業法務の基礎 Q&A | 第一法規株式会社

△ 当社は、北関東を中心に販路を拡大してきましたが、このたび群馬県M市にある建設資材会社の社長から、自社製品につき継続的に取引したいという話がありました。
当社としては、今後の販売実績の向上にもつながることであり、是非取引したいと思っていますが、相手会社が設立してまだ日が浅い点が気になります。取引に先立ち信用調査をしたいのですが、どのように、また、どの程度行えばよいでしょうか。

△ 調査方法として、自社調査と信用調査会社や興信所に依頼してする調査があります。興信所等の調査報告書に基づき、自社でさらに確認調査を行えばベストですが、経費もかかることなのでとりあえず自社調査をするべきです。
調査事項は、①会社の資産状況、②取引環境、③経営者個人の信用状態・経歴等、が主となります。自社社員に指示して、各種登記簿の閲覧・謄写、聞き込み、インターネット、面談等の方法により、上記事項の調査、確認を行います。
調査の結果、①・②がともに良好であれば、③に立ち入らずに調査を完了することも考えられます。

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1 会社資産はどうなっているか

相手先に、資産の裏付けがあるかどうかが、信用調査の要となります。
① まず登記所に行くか、郵便で、相手先の登記事項証明書(商業登記簿謄本)を取得します。これにより、相手先が本当に会社組織であるか、また、会社組織であるとして、資本金はどのくらいか、支店を有しているか、経営を担う代表取締役等の役員の氏名・住所などを知ることができます。この際、閲覧するだけでなく、会社謄本の交付申請をし、謄本をとっておくべきです。
② 次に、相手先の本店所在地の登記事項証明書(不動産登記簿謄本)を取得し、土地・建物の所有者が誰であるかを確認します。相手先の会社名義であれば、まずひと安心です。このとき登記簿の甲区だけでなく、乙区もあわせてチェックすることが大事です。
甲区には所有権に関する事項が記載されており、乙区には抵当権、賃貸借などの設定に関する事項が記載されています。したがって、乙区をみることにより、不動産にどれだけ担保が付いているか、利用権の制限があるかなど、不動産の資産価値に関する重要事項を知ることができます。
③ 本店所在地の土地・建物が他人名義であった場合等には、役員個人の資産調査に入ります。
まず、登記所へ行くなどして、住所地の不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)の謄本を取得します。土地・建物の所有名義を確認し、役員個人の名義であれば、②と同様に乙区を閲覧して担保状況を把握します。
④ 調査した不動産所在地の役場へ行くなどして、固定資産税課で、不動産の課税評価額を調査することも忘れないことです。
なお,最近では登記所のオンライン化により、最寄りの登記所で全国の登記事項証明書を取得することができるほか、後述のとおり、あらかじめ登録すれば、ネット上で取得することも可能です。

2 悪い評判はないか

同業者間での風評は、案外あたっているものです。営業社員に聞き込みをさせて、同業者間の評判を確認します。特に、取引がらみの悪い噂がないかという点に留意してください。
自社の取引銀行を通じて、相手先の信用調査ができる場合、たとえば取引銀行が同じで支店が異なるときなどには、積極的に相手先の信用状態を確かめるべきです。それができなければ、信用調査会社等を活用します。

3 実際の印象はどうか

自社社員が、相手先との商談の下話に行く際には、最もダイレクトな情報を得るチャンスです。親しく面談することにより、経営者の人柄、経営姿勢等をうかがい知ることができます。また、社屋の管理、清掃の状況や、社内の雰囲気にも触れることができますので、大いに目端を利かせて観察してください。

4 インターネットの活用

インターネット上の「登記情報提供サービス」により、あらかじめ登録すれば、商業登記や不動産登記の登記情報をPDFファイルで取得することができます。弁護士、司法書士や調査会社の多くが当該登録をしていますので、依頼して取得してもらうことも可能です。ただし、この登記情報は、法務局の窓口で発行されたものと異なり、法的証明力はないものとされています。
また、相手方のウェブサイトを閲読して、公開されている業態や広告内容の適法性等をチェックすることも重要です。
さらに、電子掲示板の書込み等が参考になることも多いです。もっとも、記載内容の真実性が担保されていないことに留意する必要があります。

5 やり過ぎは禁物

調査の目的が正当であっても、調査の仕方や程度によっては、相手先の、信用や役員個人のプライバシーを侵害する結果となることに注意してください。
個人のプライバシーや企業の信用は、法律上、保護されています。したがって、これを過って侵害すれば、違法行為となり、損害賠償等の責任を負うことになります。調査の仕方は、機敏に、的確に、しかもやり過ぎないことが肝要です。


【参考法令等】

民法709(不法行為の要件と効果)
民法710(非財産的損害の賠償)

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