大口取引先から,コンプライアンスと内部統制の体制をどうしているのか具体的に明示するように求められ,体制づくりがきちんとしていないなら取引を打ち切ると言われました。
そんなことが取引条件になるのでしょうか。また,コンプライアンス内部統制システムとはどう理解し,どう取り組めばいいのでしょうか。

コンプライアンスとは法令やルールを遵守することで,日本語では法令遵守と訳されるのが普通です。経営や企業活動は法令を守って行え,というのは時代の要請で,従えない企業は法の定める罰をうけるという限られたことではなく,取引先や消費者から見放され,社会の非難を受けることは必至です。そのため,コンプライアンス経営が実際に行われるにはそのためのシステムが必要で,その中心になるのが内部統制システム,と呼ばれるものです。

解説

1 コンプライアンス
コンプライアンスは,法令遵守と訳されるのが普通で,企業の経営および活動を,法令やルール,商業道徳などを守って行うというものです。企業におけるいわゆる不祥事や違法行為に対する社会の非難や監視が厳しくなったのに伴って,遵法の大切さを端的に示す言葉として盛んに用いられるようになっています。
企業も社会の一員ですから,法やルールを守らなければならないのは当然ですが,コンプライアンスという言葉でことさら強調されたのは,反社会的な企業は,社会から厳しい反発を受け,不振におちいるのはおろか時には倒産にさえ至りかねないという,社会にとってよりはむしろ企業にとって重大な課題になったということなのです。
したがって,コンプライアンスは,企業が受け身になって行うものではなく自らが積極的に取り組むべき課題となっていることを意識する必要があります。

2 内部統制システム
コンプライアンスということが厳しく言われるようになっても企業の不祥事はあとを絶たずに発生し,マスコミなどでも厳しく批判され,経営者の責任が問われていますが,記者会見するトップなどの中には,「不祥事は現場で行われていて,そこで隠蔽されていたため,私は知らなかった」と言い訳をする例も少なくありません。しかし,このような「知らなかった」ことが言い訳になると思っているようでは全くコンプライアンスを理解していないことを示しています。
法令や社会ルールに反する行為や事実が会社内で行われないようにすることこそ,コンプライアンスの眼目で,そのような事実や行為の存在というマイナスの情報も上部に上がってくる社内情報チャネルの設立をはかり,違法な行為や事実の是正や発生の防止を行う必要があるのです。つまりコンプライアンスが徹底できるシステムを設立しそれが機能するようにしなければならないのです。
このコンプライアンスを実行できるよう設置すべき社内制度が「内部統制システム」と呼ばれるものです。
会社法における大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)では,取締役(会)は「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合するための必要な体制」を整備しなければならず(会社法348条4項),内部統制システムの整備は法律上の義務であることがはっきりしましたが,そのことは大会社に該当しない会社でも当然のこととされています。
具体的なシステムとしてどのような制度を設けるかは,会社の規模,立場,営業種目,その他によって当然異なるのでいちがいにいえませんが,内部通報システムとして悪い情報も上がってくるようにすることと,未然防止ができるようにすることや発生後に直ちに制止できるようにすることは最低限必要といえるでしょう。
内部通報制度については,2018年に自己適合宣言登録制度が導入されました。
この制度は,事業者が自らの内部通報制度を評価して,認証基準に適合している場合,当該事業者からの申請に基づき指定登録機関がその内容を確認した結果を登録し,所定のWCMSマークの使用を許諾する制度です。
2019年度以降には,第三者認証制度ができる予定です。

3 反社会的行為の重大影響
コンプライアンスの要求が非常に高まると共に,それに反した場合にこうむる影響も非常に深刻になっています。質問のように取引先の取引拒否も当然起こりえます。取引先も反コンプライアンス企業と取引をしていること自体がコンプライアンス違反として責められかねないからです。したがって,こちらのコンプライアンス違反を理由としてやってくる取引打切りに対しては,争える余地は一般には低いでしょう。自らの態度を改めて相手の心配を必要ないものにすることが得策でしょう。

4 リーガルマインドの意識と実行
コンプライアンスの実行にはシステム構築だけでは足りません。トップから新人社員に至るまで,法やルールを守る感覚(リーガルマインド)の必要性をしっかり意識し,日頃の行動をそれに照らして行う地道な努力が必要です。
リーガルマインドを発揮してのコンプライアンスの実行は,企業経営の様々な場面で考えることができます。すなわち,顧客との関係,取引先との関係,監督官庁との関係,従業員との関係,社会との関係でそれぞれコンプライアンスを考えることができます。以下,順次アトランダムにいくつかあげておきます。

⑴ 顧客との関係
企業にとって顧客は最も大切な当事者です。顧客との関係において,コンプライアンスを考えるとすれば,次のような事項が検討対象となるでしょう。

① 顧客の信頼を裏切らない。
② 顧客に虚偽の情報を伝えないだけでなく,商品,サービスに関する十分な情報を伝える。
③ 商品に欠陥などがあった場合には,速やかにその事実を顧客に伝え,修理,回収などの措置を取る。

⑵ 取引先との関係
取引先は,企業が営業を継続していくためになくてはならないものです。取引先との関係におけるコンプライアンスとしては次のようなものが考えられます。

① 信義を重視した取引を行う。
② 自社が取引関係において優越的な地位に立っている場合でも,その優越的な地位を利用して,自社製品の押しつけ販売,抱き合わせ販売など不公正と見られる取引を行わない。
③ リベートを要求したり,もらったりしない。
④ 過度な接待を行ったり,接待を要求しない。
⑤ 贈答については,自粛する。

⑶ 監督官庁との関係
当該企業に監督官庁がある場合,対監督官庁との関係では,次のようなコンプライアンスが考えられます。

① 適用となる法令,特に業法の遵守
② 公務員に禁止されている接待,贈答は自粛する。

⑷ 従業員との関係
対従業員との関係では,次のようなコンプライアンスが考えられます。
① 労働関係法令の遵守
② セクハラ,パワハラの禁止
③ 男女差別を含む不合理的な差別の禁止
④ コンプライアンス研修の実施

⑸ 社会との関係
企業は,社会の一員として活動していくものですので,社会との関係においてもコンプライアンスを考える必要があります。

① 反社会的な勢力,団体とは,付き合わない,また,過去に付き合いがあった場合には縁を切る。
② 社会の一員としての倫理,モラルを保持し,遵守する。

5 上場会社における不祥事予防のプリンシプル
近年,上場会社において,検査データ改ざんなど潜在化していた不祥事が明るみに出ています。
これらの不祥事については,社会的影響のほか,当該企業の評価を下げ,業績への悪影響,株価の下落などももたらします。
このような事態も踏まえて,日本取引所自主規制法人は,2018年3月30日,「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」を策定,公表しました。
これは,原則ですので,各企業がこれを各企業の実情に応じて具体化し,取り入れていくことが期待されています。
その内容は,次のとおりです。

[原則1] 実を伴った実態把握
自社のコンプライアンスの状況を制度・実態の両面にわたり正確に把握する。明文の法令・ルールの遵守にとどまらず,取引先・顧客・従業員などステークホルダーへの誠実な対応や,広く社会規範を踏まえた業務運営の在り方にも着眼する。その際,社内慣習や業界慣行を無反省に所与のものとせず,また規範に対する社会的意識の変化にも鋭敏な感覚を持つ。
これらの実態把握の仕組みを持続的かつ自律的に機能させる。

[原則2] 使命感に裏付けられた職責の全う
経営陣は,コンプライアンスにコミットし,その旨を継続的に発信し,コンプライアンス違反を誘発させないよう事業実態に即した経営目標の設定や業務遂行を行う。
監査機関及び監督機関は,自身が担う牽制機能の重要性を常に意識し,必要十分な情報収集と客観的な分析・評価に基づき,積極的に行動する。
これらが着実に実現するよう,適切な組織設計とリソース配分に配意する。

[原則3] 双方向のコミュニケーション
現場と経営陣の間の双方向のコミュニケーションを充実させ,現場と経営陣がコンプライアンス意識を共有する。このためには,現場の声を束ねて経営陣に伝える等の役割を担う中間管理層の意識と行動が極めて重要である。
こうしたコミュニケーションの充実がコンプライアンス違反の早期発見に資する。

[原則4] 不正の芽の察知と機敏な対処
コンプライアンス違反を早期に把握し,迅速に対処することで,それが重大な不祥事に発展することを未然に防止する。
早期発見と迅速な対処,それに続く業務改善まで,一連のサイクルを企業文化として定着させる。

[原則5] グループ全体を貫く経営管理
グループ全体に行きわたる実効的な経営管理を行う。管理体制の構築に当たっては,自社グループの構造や特性に即して,各グループ会社の経営上の重要性や抱えるリスクの高低等を踏まえることが重要である。
特に海外子会社や買収子会社にはその特性に応じた実効性ある経営管理が求められる。

[原則6] サプライチェーンを展望した責任感
業務委託先や仕入先・販売先などで問題が発生した場合においても,サプライチェーンにおける当事者としての役割を意識し,それに見合った責務を果たすよう努める。

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