取引先に代金後払の約束で工作機械を販売納入しましたが,その後1年以上経っても売掛代金を支払ってくれません。どう対処すればいい?

貴社が,遅延損害金を請求するためには,債務者が履行遅滞にあることが必要です。この売掛代金債権の支払時期については「代金後払」というだけで,その明確な約定がなく,このままではいつまで経っても買主Xは履行遅滞となりません。その結果,Xが売掛代金につき遅延損害金を負うこともありませんし,他に特段の理由がない限りXの代金支払の遅延を理由に契約を解除してXに工作機械の返還を求めることもできません。期限の定めのない債務においては相手方が履行遅滞に陥るためには「履行の請求」が必要とされているからです。しかも,履行遅滞を理由とする解除には「相当の期間を定めた履行の催告」が必要とされ,その上で解除の意思表示をすることが必要とされています。
そこで売掛代金の支払いを請求(催告)および解除の意思表示が現になされたか否かについて,後に争いが生じないよう,貴社としては,内容証明郵便を利用すべきでしょう。

解説

1 内容証明郵便の意義
内容証明郵便とは,誰が,誰に対して,どのような内容の郵便物を差し出したかについて,日本郵便株式会社が謄本により証明してくれる書留郵便です。
内容証明郵便を利用した場合,差出人は,「書留郵便物受領証」を提示して,当該内容証明郵便を差し出した事業所(以下「差出事業所」という)に保管されている内容証明郵便の謄本を閲覧することができます。また,内容証明郵便の謄本をなくした場合でも,差出人は「書留郵便物受領証」と前に出した書面と同一内容のものを提示して,差出事業所に謄本の再度証明を求めることができます。
内容証明郵便においては,配達証明の申請をしておけば,その書面が受取人に到達したことも公的に証明することができる点で大変便利です。

2 内容証明郵便が利用される場合
内容証明郵便は,一般に,権利義務の得喪変更などに関する取引上重要な内容の意思表示をする場合,後の紛争を防ぐため通知をなしたことの証拠として利用する場合,相手方に心理的圧力をかける必要がある場合などに利用されています。
(1) 証書に確定日付を得るためになされる場合
たとえば,債権の譲渡人(債権者)が債務者に対し債権譲渡の通知をなす場合などです(本編Ⅱ「確定日付とは(確定日付が必要な場合)」参照)。
(2) 取引上重要な内容の意思表示をなす場合
たとえば,契約解除の意思表示,取消しの意思表示,相殺の意思表示などです。
(3) 法律上(手続き上)通知をなしたことが必要とされている場合
たとえば,履行期の定めのない債務につき債務者を遅滞に陥らせるための「履行の請求」,契約解除の前提としての「相当の期間を定めた履行の催告」,時効の完成猶予のための「催告」などです。
(4) 通知の日付が特に重要な場合
たとえば,訪問販売におけるクーリングオフの通知などです。
(5) 相手方に心理的圧力をかける必要がある場合(心理的効果)
内容証明郵便を出すことで,差出人の意思(将来の対応)を明確にし,相手方に対し心理的圧力をかけることができます。これによりその後の交渉(債務の履行)が比較的円滑に運ぶことが多いという経験的なメリットがあるからです。この心理的効果は本来副次的なものですが,内容証明郵便が実際に広く利用されているのは,この心理的効果を狙ってのものであるということができます。
たとえば,いったん支払いを拒絶された売掛金,損害金などの支払いを請求する場合,相手方の違法不当な行為の中止を求める場合などです。
(6) その他
相手方の認識や出方をうかがいたい場合,事前交渉のチャンスを得るために利用する場合などがあります。
たとえば,交通事故などの損害賠償請求をする際に加害者側の対応が明確でない場合に訴訟前の交渉をするきっかけとする場合,商標・商号・特許権などの不正使用の疑いがあったときに,当方の権利を主張して,不正使用の中止を求める警告書を出すなどして,こちらの認識を通知して相手方の認識(反論)や出方をうかがいたい場合などです。
ワンポイント
内容証明郵便の心理的効果(心理的圧力)について
(1) 内容証明郵便が心理的効果(心理的圧力)をもつのは,その末尾に日本郵便株式会社による内容証明郵便であることの証明が付けられたうえ書留郵便で配達されることにより,それまでの通常の請求書などと異なり,正式な文書であるとの印象を与え,しかも,これを利用することで将来の訴訟等の法的手続を告知ないし推測させるからです。
(2) したがって弁護士を代理人として内容証明郵便を出すと,将来の訴訟などの法的手続を明確に告知ないし推測させることで心理的効果は倍増します。
逆に,内容証明郵便のことを熟知している相手方や,訴訟を覚悟している相手方には,その心理的効果も半減します。
(3) また,内容証明郵便の心理的効果といっても,それは訴訟などの法的手続そのものではありませんから,相手方に対する何らの法的強制力を意味しません。したがって内容証明郵便を出したからといって,必ず相手方が当方の主張を認めた上で債務を履行するとは限らないということです。
たまに何ら交渉に進展がみられないまま内容証明郵便が当事者間で相互に繰り返し出されていることがあります。当事者としては「内容証明郵便を出しておけば相手方が譲歩してくるだろう。」というつもりかもしれませんが,これはまったくの誤解です。
内容証明郵便を出したにもかかわらず,相手方が債務の履行や任意の交渉に応じない場合には,訴訟などの法的手続を考慮するしかないでしょう。

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